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清少納言って、どんな人?
ドラマ「光る君へ」
ファーストサマーウイカさん演じる“ききょう”は清少納言。
あの有名な『枕草子』を書いた女性です。
清少納言…本名は分かっていませんが、中宮“定子”に仕えた女房でした。
女房とは、女主人の身の回りの世話や教育・話し相手をする侍女のことで、部屋を与えられている位の高い女官です。
清少納言は賢くて明るい性格だったそうです。
でも、彼女はコンプレックスを持っていました。
それは自分の容姿。特に髪。
当時の美人の条件のひとつは、真っ直ぐで 黒くて 豊な髪です。
清少納言の髪は茶色がかったくせ毛で量も少なく、“かもじ”というエクステをつけていました。
つくろひ添へたりつる髪も、唐衣の中にてふくみ、あやしうなりたらむ、色の黒さ赤ささへ見えわかれぬべきほどなるが、いとわびしければ 『枕草子』
ドラマの中、“ききょう”は初めて定子に会ったとき、その美しい顔にボッーと見とれていました。
実際の清少納言は顔や髪を見せるのが恥ずかしくて、最初の頃 出仕は夜だけ、昼間は自分の部屋に引き籠っていたそうです。
ついたての後ろに隠れている清少納言に、定子は一緒に絵を見ましょうと誘います。
清少納言は興味を惹かれて定子の前に出ると、絵を持つ定子の指先が少しだけ のぞいて見えます。
指先のとても美しい桃色に感激したのでした。
御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたし『枕草子』
自分よりも低い身分の女房にまで気遣ってくれる定子の優しさに触れ、清少納言は定子に憧れと尊敬の念を抱きます。
そして、一生を定子のために捧げたのでした。
『枕草子』は面白くて 感動的
春はあけぼの
『枕草子』は日本初のエッセイ。
「春はあけぼの…」から始まる冒頭はあまりに有名です。
『枕草子』には、このような事が書かれています。
・宮廷での日記
・社会の出来事などへの意見
・ものづくし…同じ種類の物を並べて、感想を述べる
「春はあけぼの 夏は夜 秋は夕暮 冬はつとめて(早朝)」
「遠くて近きもの 極楽 舟の道(道中) 男女の仲」など
特に「ものづくし」は『枕草子』の特徴で、そこに描かれているみずみずしい感性は、1000年後を生きる私たちの共感をも誘います。
NHKの「歴史探偵」の番組で、実際に清少納言が見たであろう風景に近い「春はあけぼの〜」の映像を見せてくれました。
香炉峰の雪
「光る君へ」第16回では、『枕草子』の有名な場面「香炉峰の雪」が再現されていました。
雪が深く降り積もった日、中宮定子は清少納言に「香炉峰の雪はどんなかしら?」と尋ねます。
清少納言は女官に格子を上げさせた後、自ら御簾を巻き上げましたので、定子様は満足げにお笑いになりました。
雪のいと高く降りたるを ー略ー 「少納言よ。香炉峰の雪はいかならむ」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。『枕草子』
「香炉峰の雪」は、唐の詩人「白居易」(白楽天とも呼ばれる)の詩が元となっています。
清少納言がこの詩を知っていて、機転をきかせ すぐに行動に移したため、定子は満足してお笑いになったのです。
「香炉峰の雪」が書かれた背景には、このような事があります。
白居易は政敵に敗れて左遷され、香炉峰という山(廬山)の麓に住むことになりました。
そこで詠んだ詩なのです。
この美しい山の雪は、布団の中で寝たまま御簾をあげて見よう。
(これからは忙しい政務と離れ、悠々自適にすごそう)
香 炉 峰 雪 撥 簾 看
香炉峰の雪は簾を撥げて看る 『香炉峰下新ト山居』
何のために『枕草子』は執筆されたのか?
栄華を極めていた中宮定子ですが、後ろ盾の父が早く亡くなり、やがて没落の一途を辿ります。
悲観した定子は突如 出家し、生きる望みを失ってしまいます。
その頃に『枕草子』は書かれました。
定子は『枕草子』を読むことで癒され、少しずつ元気になっていきます。
なんのために『枕草子』は書かれたのか?
その答えは、「光る君へ」第23話の中に描かれていたと思います。
定子は“ききょう”におっしゃいます。
「あの頃(自分が輝いていた頃)が そなたの心の中で生き生きと残っているのであれば、私も嬉しい」
“ききょう”は答えます。
「しっかりと残っております。しっかりと」
『枕草子』は たった1人、定子のために書かれたのです。
定子の生前は彼女を元気づけるため、そして 亡くなってからは、定子の素晴らしさと 幸せだった時の華やかさを 後の世の人々に伝えるために。
藤原道長の全盛の時代、道長一族への恨みは一切書かないことで、『枕草子』は消されることなく読み継がれてきたのです。
鸚鵡(オウム)文様
宮中の女房は女性の正装、唐衣・裳をつけた十二単衣を着なくてはいけません。
“ききょう”も宮中では十二単衣を着ていました。
ききょうの唐衣の文様は、2羽の鸚鵡が向かい合っている「向鸚鵡丸」でした。
鸚鵡文様
鸚鵡の文様は古くは正倉院宝物に見られます。
「向鸚鵡丸文様」は平安時代の位の高い女性がよく使用していました。
人の言葉を真似る鸚鵡は西域(西アジア)の霊鳥※と言われています。
※不思議な力を持つ神聖な鳥
清少納言は『枕草子』鳥の「ものづくし」で、一番最初に鸚鵡を記述しています。
“ききょう”が鸚鵡の文様の衣装を着ていたのは、この記述が関係しているのでしょうか。
鳥のことを話すのなら鸚鵡。
外国の鳥だけど、鸚鵡はとても興味深い。
人の言うことを真似るそうだ。
鳥は こと所のものなれど、鸚鵡はいとあはれなり。
人の言ふらむことをまねぶらむよ 『枕草子』