鏡裏文様 〜〜「光る君へ」藤原惟規(のぶのり)の衣装より

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紫式部の弟 藤原惟規のぶのりは、どんな人物 ?

陽気で おおらかな弟 内向的で思慮深い姉

紫式部と その弟“惟規のぶのり”は、正反対の性格。
惟規は、明るくて、細かなことは気にしないタイプでした。

ともすれば、陰にこもりがちな紫式部の心の支えになっていたことと思います。

惟規のぶのりは出来が悪かった ?

惟規は幼い頃、学者の父“為時ためとき”から漢詩を学びましたが、なかなか覚えられませんでした。
横で聞いていただけの紫式部が、スラスラと暗唱したため、父は「お前が男だったら」と嘆いた話は有名です。

天才の姉と比較されて、出来の悪い印象を持たれがちな惟規ですが、実は難しい試験に合格し文章生もんじょうしょうになれれるほど優秀でした。
※ 官吏になるための教育機関「大学寮」で詩文や歴史を学び、試験に合格した者
ただ、仕事上では何度か失敗をして、紫式部をハラハラさせたこともあります。
失敗と言っても、礼儀を守らなかったこと。
当時の貴族の仕事は手順や作法が重要でだったため、失敗と考えられましたが、惟規の細かなことを気にしない大らかな性格ゆえでしょう。

惟規は今際いまわの時でさえ、おおらか

ドラマ「光る君へ」で演じられていた通り、惟規は若くして病で無念の最期となってしまいましたが、臨終の時のこんな逸話が残されています。
惟規はもう助からないだろうと判断した父は、出家をさせるため僧を招きました。
僧は「死ぬと中有ちゅうゆうという所に行きます。そこは荒涼として鳥も動物もいない寂しい場所」と説きます。
ところが惟規、「そこには、嵐に舞い散る紅葉、風にそよぐススキ、松虫の鳴き声はありますか ?」と聞くのです。
和歌を愛していた惟規は、歌の題材さえあれば、たとえ寂しい中有ちゅうゆうに1人でいてもいいと考えたのです。
僧はあきれて帰ってしまいました。

惟規の恋は禁断の「神の斎垣いがきを越えた恋」

惟規の恋といえば「神の斎垣いがきを越えた恋」。
「光る君へ」第35回でも紹介されていました。

平安時代、賀茂神社(今の上賀茂と下鴨神社)に奉仕する皇女がいた場所を斎院さいいんと呼びました。
斎院に巡らした垣根を斎垣いがきといいます。
斎院は神聖な場所でしたので、むやみに斎垣いがきを越えることは御法度ごはっとでした。
ところが、藤原惟規は、斎院の選子のぶこ内親王に仕える女房“中将の君”と恋に落ち、彼女に逢うために斎垣を越えてしまいます。
警備の者に見つかり、名を名乗れととがめられます。
中将の君は内親王に助けを求め、惟規は無事帰ることができました。
惟規は内親王に和歌を詠みました。

天智天皇が住んでいらした「木の丸殿きのまろどの」。そこへ訪れるには、名乗らなければいけなかった。
この斎院は「木の丸殿」ではないけれど、名乗らないのでとがめられてしまいました。
神垣は 木の丸殿に あらねども 名のりをせねば 人咎めけり
『今昔物語』
この歌は『新古今和歌集』に載っている天智天皇の和歌を踏まえていました。
内親王は、惟規の無茶な行動をお叱りになるどころか、和歌を聞き、彼の博識ぶりをおめになったそうです。
朝倉や 木の丸殿に 我居れば 名乗りをしつつ 行くは誰が子ぞ
『新古今和歌集』
惟規は漢学こそ苦手でしたが、和歌はかなり得意。
勅撰集ちょくせんしゅうに何首も選ばれたり、『藤原惟規集』を編集したり、惟規の和歌は耽美たんびな歌として評価を受けています。

『源氏物語』にも「神の斎垣いがき」が登場

光源氏は、恋人の“六条の御息所”が生き霊となり、正妻の“葵の上”の死に関わったことから、“六条の御息所”と逢うことを避けていました。
その頃、“六条の御息所”の娘は斎宮さいぐうに選ばれ、身を清めるため嵯峨野の野宮に籠っていました。
※ 天皇の代わりに伊勢神宮の神様に仕える未婚の皇女。
“六条の御息所”は光源氏を諦め、娘に付き添う決心をします。

うとましく思っていたのに、別れとなると未練が募るのが光源氏の性分。
野宮まで“六条の御息所”を訪ねます。
手に持っていたさかきの枝を“六条の御息所”に差し出しながら、自分の思いを訴えるのでした。
さかきの葉の色が変わらないように、私の心も変わらない証として、「神の斎垣」を越えて参りました。
それなのに、あなたはこんなにも辛く私に接するのですね。
変はらぬ色をしるべにてこそ、斎垣も越えはべりにけれ。さも心憂く。
『源氏物語』賢木の巻

鏡裏きょうり文様

惟規が着ていた衣装の文様は「鏡裏きょうり文様」でした。
鏡裏きょうり文様
正倉院宝物には鏡がたくさんあります。
鏡の裏には、金・銀・螺鈿などで美しく細工がしてあります。
この鏡の形を文様にしたものが「鏡裏文様」、またの名を「古鏡文様」と呼ばれます。
歴代の天皇に受け継がれてきた「3種の神器」。
剣・勾玉・鏡です。
この鏡は、天照大御神を祀る伊勢神宮の御神体とされています。
「鏡裏文様」には魔除けの意味があるのです。
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