花喰鶴文様 〜〜「光る君へ」藤原道長の衣装より

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貴族きぞくの暮らし

貴族きぞくひまを持てあまし、優雅に遊ぶ?

『源氏物語』に、こんな場面があります。
政治の頂点に立った光源氏は、豪華な邸宅を建てました。
東京ドームより広い敷地は、春・秋・夏・冬の4つの「町」に区切られ、それぞれの季節の花が咲き乱れていました。
晩春のある日、光源氏は洒落しゃれた舟を大きな池に浮かべ、女房たちを乗せます。
※ 女主人の世話や教育、話し相手をする女官
音楽が華やかに奏でられ、花々はよい匂いで舟を包み、水鳥たちは細い枝をくわえて飛び交っています。
その素晴らしさに、女房たちは浄土じょうどにいるようと感激し、時の経つのも忘れて過ごしました。
『源氏物語』「胡蝶こちょう」より
このシーンを想像すると、貴族たちはのんびりと優雅に遊んでいる印象。
でも実際は…
貴族たちは日記を書いて残していました。
日記と言っても、今の様な私的なものではなく、公の記録でした。
『源氏物語』の主人公、光源氏は実在する複数の人物をモデルにしていると言われています。
そのうちの1人が藤原道長です。
光源氏も道長も同じく栄華を極めました。

驚くことに、1000年以上も前の道長直筆の日記『御堂関白記みどうかんぱくき』が現存しています。
貴族が記した日記は他に、藤原行成ゆきなりの『権記ごんき』、藤原実資さねすけの『小右記しょうゆうき』(共に写本)が残っています。
写真 NHK「歴史探偵」[源氏物語]より『御堂関白記みどうかんぱくき
日記を紐解ひもとくと、道長が休んだのは、1月ひとつきのうちわずか4日だったそうです。
他の貴族たちの日記でも同じような働きぶり、彼らは忙しい日々を送っていました。
貴族の朝はとても早く、まだ暗い3時から。

貴族はどんな仕事をしてたの?

平安時代には年中行事などの儀式が、とても大切にされていました。
多少形を変えつつ、今でも続いている年中行事があります。
ひな祭り、端午たんごの節句、衣替え、七夕、お盆、お月見、節分など
様々な儀式は、天皇が国の安寧あんねいを祈願するために行われていました。
それはイコール朝廷の威厳いげんを示すことでした。
朝廷に力があったからこそ、武士が武力により台頭たいとうするまで およそ400年間も平安の時代は続いたのです。

そして、貴族たちの主な仕事は、儀式を決められた手順で行うことでした。
手順を間違えると、能力のない人と評価がついてしまいます。
反対に源俊賢としかたのように儀式に精通していると、後ろだてがなくても 出世の道が開かれました。
※ 俊賢についてはこちらをお読みください
貴族たちは子孫のために、儀式の手引書として日記に記し残したのです。

花喰鶴はなくいづる文様

「光る君へ」の中で、道長が政治のトップに立ったばかりの頃、着ていた普段着(直衣のうし)は「花喰鶴はなくいづる文様」です。
鶴が花をくわえ羽を広げている、品格のある美しい文様です。
花喰鳥はなくいどり文様

鳥が何かをくわえている文様は大変古くからあり、古代オリエント時代にも見られます。
リボンの様なもの(綬帯じゅたい)を咥えていました。
この文様の起源は「ノアの方舟はこぶね」の伝説だとか。
神から大洪水のお告げを受けた“ノア”は大きな舟を造り、家族や動物たちを乗せ避難しました。
ノアたちは山の頂上に流れ着き、舟の中で避難します。
やがて月日は流れ、ノアは鳩を放ちます。
オリーブの枝を咥えて戻ってきた鳩を見て、水が引き植物が芽生えたことを悟ります…

鳥が何かを咥える姿は、平和を象徴する吉祥文様となりました。
左 サン・サヴァン修道院 天井画
やがて、この文様はシルクロードを通り中国の唐へ。
奈良時代には日本へと伝わりました。

正倉院の宝物でも見ることができます。

松喰鶴文様

鶴が松をくわえる「松喰鶴まつくいづる文様」。

この文様の衣装を、道長と源俊賢としかた(道長の義兄)も着ていました。
松喰鶴まつくいづる文様
平安時代になると国風文化が発展し、「花喰鳥文様」も日本独自のものに変化していきました。

鳥が咥えていた綬帯じゅたい(リボン)は、花や松の枝になりました。
令和の天皇ご即位の式典で、雅子皇后がお召しになった十二単衣の文様も「松喰鶴まつくいづる」でした。

松も鶴も長寿の象徴です。
「松喰鶴」文様は、おめでたいものを重ねて、良きことが永遠に続くという意味があります。
「光る君へ」第36話
彰子が産んだ皇子の50日のお祝い(御五十日おほんいか)がもよおされました。
道長の衣装は「松喰鶴文様」へと変わります。
宴会の席で、道長がこんな和歌を詠みました。
私にも鶴の様に千年の命があるならば、若宮の御代の千年の数を数えることができるのに

あしたづの よはひしあらば 君が代の 千歳のかずも かぞへとりてむ

この和歌にちなみ 道長の衣装は、長く続くという意味の松喰鶴文様が選ばれたのでしょうか。
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